
「トラウマ」という言葉に、どんなイメージを持っていますか?
事故や虐待、災害、戦争──そんな特別な出来事を思い浮かべるかもしれません。
あるいは、親の暴力や虐待、差別やいじめ、依存症を抱えた家族、メンタル疾患のある親との生活といった
目に見えるような問題
けれど、実はトラウマは、何が起きたかではなく、その出来事に対して自分の内側で何が起きたか、その「反応」にあるのです。
トラウマとは、「傷」という語源です。。
それも目に見える傷ではなく、心や神経系に刻まれた“内的な傷”なのです。
そしてそれは、あなたが生き残るためにとった、ごく自然な反応なのです。
この視点を提唱しているのが、カナダの医師・Dr.ガボール・マテです。
彼は、トラウマとは一部の人だけの問題ではなく、現代社会に生きる私たちすべてに関係のあるテーマだと語ります。
「ありのまま」の感情を否定・抑制されて起こる
トラウマは、暴力や差別といった極端な出来事だけに限りません。
むしろ、子どもが自然な感情を表現したときに「ダメ」と否定されるような、
日常的で小さな体験の中にこそ、深い傷が隠れています。
トラウマとは人間が持つ感情の表現を多くは環境要因や親などにより、
否定や抑制、無視されたなど、「理解されなかった」ことで
刻まれる心の傷です。
泣いたら怒られた。怒ったら無視された。
喜んだら「調子に乗らないで」と言われた。
「いやだ」と言えない状況だった
そうした繰り返しの中で、子どもは次第に「このままの自分ではダメなんだ」と思い込むようになります。
子どもは親の感情の変化にとても敏感です。
もし親が不安定だったり、子どもを受け入れずに否定していた場合、
子どもは無意識のうちにその関係を修復しようとします。
親の不足感や欠如感を、自分が「良い子」でいることで埋めようとするのです。
そして、「いい子でいなければ」「役に立たなければ」「愛されない」──
そういった条件付きの自己が、静かに、けれど確実に形づくられていくのです。
トラウマは、体に刻まれる
トラウマは心だけの問題ではありません。
身体の反応としてもはっきりと現れることが、近年の研究でわかっています。
神経系や免疫系、ホルモン分泌にも影響を与え、
ストレスホルモンの過剰分泌や血中の炎症反応の持続を起こすことがわかっています
うつ・自己否定感・依存症などを引き起こすだけでなく、
ガンや自己免疫疾患、ホルモン異常など身体の病気にもつながることがあります。
トラウマは、生まれてからの経験だけでなく、胎児期からも影響を受けていることがわかっています。
子どもが母親の体内にいるとき、母親が感じていた感情やストレスのレベルによって、
赤ちゃんの神経系の「ストレスへの反応パターン」が決定づけられてしまうのです。
つまり、「生きること=緊張」という前提で生まれてくる人もいるということです。
トラウマはサバイバル反応であり、
一部の人だけが抱えるものではありません。
それは、あなたがかつて不安定な環境の中で、
どうにかして自分を守るために選んだ賢明な適応のかたちです。
その反応がなければ、生き延びられなかったからです。
トラウマとは、あなたの弱さの証ではなく、
かつてのあなたが、どれだけ一生懸命に生き延びてきたかの証明でもあります。
差別や社会的抑圧もまた、トラウマとなる
アメリカの研究では、黒人の人々が白人よりも早く老化するというデータがあり、
これは構造的な人種差別による慢性的ストレスとトラウマ反応が背景にあるとされています。
また、喘息などもトラウマの症状として知られています。
長期的な恐怖、怒り、悲しみを安全に表現できない状況が、
呼吸を制限するような症状として身体に現れているのです。
トラウマとは何かを理解することにより、自分の中で起きていることが明確になっていくはずです。